




現代心理学の創始者とされているドイツの「ヴィルヘルム・ヴント」。
フロイトやアドラーはよく耳にしますが、「ヴントは知らない。」という人は多いのではないでしょうか。
今回は知られざる心理学の功労者「ヴント」の活躍について一緒にみていきましょう。
心理学の創始者「ヴント」とは

出典:Wilhelm Wundt1832-1920(Wikipedia)
学問として心理学がはじまったのは1897年。
当時、哲学の教授であったヴントが、ライプツィヒ大学に公式の心理学実験室をつくったタイミングとされています。
ヴントのおもな功績としては、
- 実験による心理学を行った。
- 世界初の心理学実験室をつくった。
- 心理学を体系化した。
の3つをあげることができます。
ヴントの心理学は「実験心理学」ともいわれており、これは「人の感じ方」を測定しようとしたフェヒナーの「精神物理学」の影響を強くうけました。
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ヴントのもとには世界各国(欧・米・日本など)から研究者があつまり、その後の心理学の発展に多大なる影響を与えました。
ヴントの心理学・統覚
ヴントにとって心理学の目的は、「意識」を理解することでした。(=無意識ではない。)
ヴントは当初、意識は要素による「複合的なもの」と考えました。
しかし、ヴントはその後(ライプチヒ時代にはすでに)いくつかの要素を「1つのまとまりとして捉える働き」があると考えます。
ヴントはこの働きを「統覚」と呼び、意識は統覚を中心にした「動的なシステム」という考えに発展させていきました。
「ヴント=要素主義」とする文献はいまだ多いですが、これはティチナー達がアメリカで紹介したヴント心理学に対する一種の誤解であるといえます。

参考文献
・「流れを読む心理学史―世界と日本の心理学」
サトウタツヤ・高砂美樹
ヴントの実験方法・内観法
ヴント心理学の実験方法は、「内観法」といわれるものでした。
「内観法」とは簡単に言うと実験者が自分自身でこころを観察し、それを話してもらう手法です。

内観法が、ただの主観的な自己観察になってはダメだとヴント自身も考えており、そのために被験者に一定の訓練をさせたり、金属の大きな装置をつかい、人の反応時間を機械的に測定したりしました。
外部から内部へ刺激をあたえ、内部における経験と外部に出てくる反応を内観法&特殊な装置で分析していくのがヴントの心理学です。
この測定と内観を用いて「より科学的に心を解明しようとした点」が、それまでの哲学などと大きく異なるポイントになります。

ヴント心理学の発展
現代心理学に大きな影響を与えたヴント心理学はアメリカにわたり「構成心理学」や「機能心理学」を生み出しました。
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さらに20世紀には、逆にヴントの考え方へのアンチテーゼとなる3つの心理学も発展します。
- 精神分析学-意識でなく無意識を研究(フロイト)
- ゲシュタルト心理学-要素や構成でなく全体(ウェルトハイマー)
- 行動主義心理学-内観では客観性に欠ける(ワトソン)
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こうしてみると「ヴントは心理学はじめただけ?」と感じてしまうのですが、近年ヴントの功績については再評価が行われているそうです。
さて,ヴントは記念碑にすぎず,乗り越えられてしまった存在なのでしょうか? 近年の心理学史研究はヴントの再評価を進めています。
「再評価されるヴント」日本心理学会
まとめ
今回のお話のポイントをまとめると以下になります。
「ヴント」のポイント
- 初の公式「心理学実験室」を設立。
- 心理学を学問として確立。
- 「意識」を研究をした。
- 意識は「統覚」を中心としたもの。
- 「内観法」をつかった。
- ヴント後さらに心理学は発展した。
昨今「心理学」といってもその幅は広く、時代や世界情勢によってもあり方はさまざまに変化してきました。
そして、誕生から約140年。
人のこころが巻き起こす紛争は、いまだ無くなることはありません。
もしかすると心理学は、人間と地球の存続にとって最大のテーマといってもいいのかもしれません。
そんな意味でもヴントが「心理学」を学問として押し上げたことは、人類にとっての輝かしい功績だといえるのではないでしょうか。
以上。心理学の創始者「ヴント」についてのお話でした。
ご参考にさせていただいた書籍
参考文献
・「再評価されるヴント」
サトウタツヤ(日本心理学会)
本日がみなさまにとって、すばらしい一日でありますように。
