心の問題を引き起こす「無意識の抑圧」
そんなメカニズムを考えたフロイトの精神分析学は、20世紀心理学の大きな流れとなりました。
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フロイトは大学では教えませんでしたが、主催の「ウィーン精神分析協会」には、ユングやアドラーを含むたくさんの研究者が訪れます。

やがて集まった分析家たちは、ぞくぞくとフロイトの元から離れていくのです。

フロイトは、心の問題を一様に「性的な欲求」によるものだと想定しました。

この批判は同時に精神分析学を新しい方向に発展させていきます。
今回はこのフロイト心理学から分派していった、
- アドラー心理学
- ユング心理学
- 新フロイト学派・自我心理学
について解説していきます。
アドラー心理学

出典:Alfred Adler 1870- 1937(Wikipedia)
アルフレッド・アドラー
●オーストリア出身ユダヤ人
●個人心理学を創始
●「共同体感覚」を唱える
小さなころから病気がちだったアドラーは劣等感を抱きながら育ちます。
医学部を卒業し開業医(眼科・内科)をしていた時、フロイトに招かれ「ウィーン精神分析協会」の研究グループに参加。
1910年には協会の代表にもなりました。
しかし、性的な抑圧に原因をもとめるフロイトの考えに対し異論をとなえ、1911年に決別、協会を離れます。
アドラーの心理学は、人はそれぞれ劣等感があって、その弱さを克服するために「補償」が起こるという考えに由来します。
そしてアドラーは自らの心理学を「個人心理学」と呼びました。
また第一次世界大戦の軍医時代に多くの神経症患者と出会い、アドラーは「共同体感覚」が何よりも重要であることも見出します。

出典:Adler-child(Wikimedia Commons)
劣等感を中心にしたアドラーの考えは、マズローのヒューマニスティック心理学などにつながるようなところがあるといえます。
ユング心理学

出典:Carl Gustav Jung 1875-1961(Wikipedia)
カール・グスタフ・ユング
●スイス出身
●コンプレックスを定義
●分析心理学を創始
●「集合的無意識」の存在をとなえる
1901年から病院につとめたユングは精神科医として心の病と向き合い、不治の病とされていた統合失調症の解明などにも取り組みます。
また研究のなかでは、何らかの感情によって統合されている心的内容の集まりを、「コンプレックス(心的複合体)」と定義しました。
フロイトとの親交は1907年にはじまります。
1910年にはフロイトが設立した「国際精神分析協会」の初代代表になりました。

しかし1913年にフロイトとの意見の対立が明確化。
それまでおこなっていた文通も途絶えてしまいます。
1914年。ユングは協会をやめ大学の講師も辞任、分析家として開業しました。
フロイトの考えとの違いとしては、外向性と内向性を分ける類型論を展開した点や、「無意識」の奥には人類共通の「集合的無意識」が存在するとした点などが挙げられます。
なおフロイトとの決別については映画「危険なメソッド」でも描かれているので、もしご興味ある方はご覧になるとよいと思います。
新フロイト学派・自我心理学
ナチスの迫害を逃れアメリカやイギリスに移住した分析家のなかにも、フロイト流とは異なるあたらしい精神分析が生まれます。
それらは「新フロイト派」や「自我心理学」へと発展していきます。
ここでは代表的な分析家、新フロイト派のホーナイ、自我心理学のアンナ・フロイトをご紹介します。
カレン・ホーナイ(アメリカ)

出典:Karen_Horney 1885-1952(Wikipedia)
カレン・ホーナイ
●新フロイト派
●ドイツ出身
●アメリカで活躍
●フェミニズムに影響
カレン・ホーナイはフロイト精神分析の男性中心的な考え方といえる、女児の男根願望を批判した分析家です。
男の子ならみなエディプスコンプレックスをもつという考えに対しても、家庭や文化を重視した考えを展開しました。
ホーナイの考え方はフェミニズムに影響をあたえます。

アンナ・フロイト(イギリス)

出典:Anna Freud 1895-1982(Wikipedia)
アンナ・フロイト
●自我心理学
●オーストリア出身
●イギリスで活躍
●児童精神分析の開拓者
フロイトの娘アンナ・フロイトは、父から学びをうけその道に入ります。
1938年ナチスの侵攻により父とともにイギリスに亡命。
フロイトが癌になってからは、国際精神分析会の事務局長をつとめるなど父の仕事も引き受けます。
彼女はその後、フロイトの自我論を発展させた自我心理学を展開。
彼女が整理した自我の「防衛機制」はとても有名です。
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また彼女は「戦争が子ども達に与えた影響」を調査したり、児童精神分析の開拓者ともされています。

まとめ

出典:Sigmund Freud 1856–1939(Wikipedia)
アドラー・ユング・新フロイト学派・自我心理学は総じて、フロイトの性に特化する理論に批判的な立場でした。
それぞれのポイントをまとめると以下になります。
アドラー心理学 | |
アドラー | ・オーストリア出身 ・個人心理学を創始 ・共同体感覚を唱える |
ユング心理学 | |
ユング | ・スイス出身 ・コンプレックスを定義 ・分析心理学を創始 ・集合的無意識の存在をとなえる |
新フロイト派・自我心理学 | |
ホーナイ | ・ドイツ出身 ・新フロイト学派 ・アメリカで活躍 ・フェミニズムに影響 |
アンナ・ フロイト |
・オーストリア出身 ・自我心理学 ・イギリスで活躍 ・児童精神分析の開拓者 |
フロイトが性理論に固執した理由のひとつとして、19世紀後半の規律やモラルを必要以上に重んじる当時のヨーロッパの風潮に対するアンチテーゼであったことがあげられます。

この精神分析の発展のあとには、第三勢力といわれるヒューマニスティック心理学などが拡大します。
このあたりはまた別の機会にお話したいと思います。
以上、フロイトの精神分析から発展していったアドラー・ユング・新フロイト学派・自我心理学の流れでした。
ご参考にさせていただいた書籍
本日がみなさまにとって、すばらしい一日でありますように。
